PICK UP ACTRESS 石橋静河
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
良作で深みのある演技を続けて注目
「二階堂家物語」で跡継ぎに揺れる役
――石橋さんの出演作はハズれがない印象がありますが、自分で出る・出ないをジャッジしているんですか?
「そんなことはあまりなくて、かと言って、全部決めてもらっているわけでもないです。本当に良い作品に出会えている、というだけですね」。
――自分でも映画はよく観ますか?
「観ますね。最近だと忙しくて『ボヘミアン・ラプソディ』くらいしか観られてないですけど、映画館に行くのは好きです。名画座にも行きます」。
――好みの傾向はどんな感じですか?
「海外のミニシアター系というか、あまり大きすぎない作品のほうが好きなものが多い気がします」。
――いわゆるハリウッド大作よりも。
「でも、観るときにそういう基準では選んでいません。『面白そうだな』と思ったものを観ています」。
――特に心に残っている作品というと?
「ベスト1はちょっと決められませんけど、『フランシス・ハ』というアメリカのミニシアター系の映画があるんです。グレタ・ガーウィグという『レディ・バード』を撮った監督が、女優として主演していて、踊りをやっている女の子の成長のお話で、すごく好きです」。
――石橋さん自身のルーツがダンサーだけに?
「そうですね。その映画を観たときは、私はまだお芝居をやる前で、踊りをやっている感覚のほうが強かったです。グレタ・ガーウィグさん自身が踊りをやられていた方で、とてもチャーミングでした」。
――ちょっと検索してみたら、彼女が脚本にも携わっていたようです。
「踊りを題材にした映画はいっぱいあると思いますけど、これは踊る側から撮っているので、踊りをやっている人たちの心情がちゃんと描かれていました」。
――今度公開される「二階堂家物語」については、まず仮台本か何かを読んだんですか?
「台本は何稿か来ました。でも、最初は監督とスカイプオーディションをしました」。
――スカイプで? あっ、アイダ・パナハンデ監督がイランの方だから?
「監督が奈良に下調べに来ていて、イランに帰る日しか私とお話できる時間がなかったんです。私は東京だったから、スカイプで『このシーンをやってみましょうか』と演じてみたりして、(二階堂家の娘の)由子役に決めてもらいました。だから最初は台本の断片をもらって、決まってから台本をいただきました」。
――台本はどうでした?
「元は監督と旦那さんの脚本家の方がペルシャ語で書いた台本で、それを英語に訳してから日本語にしているので、読み込むのに難しさがありました。どういうお話なのか理解するのにかなり時間がかかったし、出来上がった映画を観てから『こういうことだったのか』と思ったところも結構ありました」。
――「奈良の代々続く旧家で跡取り息子がいない……」という物語ですが、最初から女優としてそそられるようなものではなかったと?
「お話として全体をあまり把握できなかった、というのはありましたけど、一番にこの作品をやりたいと思ったのは、アイダ監督が素敵な方だったからです。外国人の監督の方と初めてお話したんですが、イランでは映画を作るのが本当に難しいみたいで……。検閲が厳しくて、女性に対する抑圧もある。その中で作っていく意志の強さを、スカイプをしていてすごく感じました。『こんなにカッコイイ人がいるんだ』とシビれて、『この人と一緒に作品ができたらいいな』と思いました」。
――石橋さんは以前、「感情からではなく身体から役に入っていく」と発言していました。由子役でもそういうアプローチをしたんですか?
「この撮影をしていた頃はたぶん、まだ自分がどうやって演じるのか、その話をしたときよりもわかっていませんでした。とにかく大変だったんです。日本人の監督でもやり方はそれぞれ違いますけど、そうした中でもアイダ監督の演出方法は全然違っていたので。自分のアプローチの仕方がわからなくて、『どうしたらいいんだろう?』って探りながらやっていた感じですね」。
――アイダ監督の演出がどんなふうに独特だったんですか?
「かなり画にこだわる方で、『こっち側から入ってきて、何歩歩いたら台詞を言って』みたいなことを言われるんですけど、言われた通りにやったら、『なんでそこで台詞を言ったの!』って怒られるんです(笑)。エーッとなって『だって、そう言ったじゃないですか?』と聞くと、『言われたからやった、みたいなことをしないで!』と言うんです」。
――流れでやらないでほしい、という意味ですか?
「監督として『ここで台詞を言ってほしい』というのはあるけど、『そう言われた時点で、そこへ行って台詞を言う動機を自分で作ってから芝居しなさい』というような、とても難しいことを求められました。だから毎日、監督に『違う!』『違う!』と怒られながら、やっていました(笑)」。
――由子の父親の二階堂辰也(加藤雅也)が「由子は頑固だ」という台詞がありました。石橋さんも由子は頑固だと感じました?
「そうですね。でも私が面白いと思ったのは、お父さんと娘の怒るポイントがすごく似ていることです。怒り方も性格も似ている。たぶん監督が作ったことですけど、そういう意味でお父さんも頑固だと思うし、似ている娘も頑固だなと思いました。ただ、それは客観的に見て思ったことなので、自分で頑固だと思いながら演じてはいません」。
――二階堂家の跡取り問題を解決するには、父親が再婚するか由子が婿養子をもらうしかない中で、2人は激しい言い合いもしていました。石橋さんはそういうケンカを周りの人とすることはありますか?
「子どもの頃はよく怒ってましたけど、最近はあまりないですね。普段あんな感じでバトルはしません。そんなエネルギーはないので(笑)。だって、意見の違う人とぶつかってケンカするのって、すごく疲れるじゃないですか。本当にその人が嫌いなら関わらなければいいわけだし、由子の場合なら、お父さんに『もういい』と言って、自分が家を出て行っちゃえば済む話なのに、そうしないで毎回ケンカになるのはすごいなと思います。『私はこう思う。お父さんはおかしい』とか『私はここにいるんだよ。ちゃんと見てほしい』とずっと訴え続けるのは、すごく体力も要ることだし、諦めずにやり続ける由子は強い人だなと思いながら演じてました」。
普段は能天気に暮らしてますけど
役の影響で笑わないと思われてます(笑)
――家の跡取りという問題自体は、石橋さんにとって身近なものではないですよね?
「身近ではないですね。この作品をやることになって初めて知りましたが、由子たちにとっては一番の問題なので、『どういう気持ちになるだろう?』と考えはしました。ただ、由子としてはそれより、お父さんにもっと自由になってほしいし、お父さんが自分をありのままに見てくれてないことが一番の悲しみなんです。跡取りのことはサブジェクトだけど、お父さんに自分を“息子ではない子ども”ではなく“娘”として見てほしい気持ちのほうが強かったと思います」。
――由子はお父さんが跡取りのために好きでもない人と再婚するのに反対していて、何だかんだ言っても、お父さんが好きなんでしょうね。
「そういうことなんだと思います。本当に嫌いなら、絶縁してしまえばいいので。なのに、お父さんにもおばあちゃんにもああだこうだ言って暴れ回っているのは、自分がこの家族を何とかしたい気持ちがあるから。そこはすごく素敵なところですよね」。
――由子自身にも、家系が途絶えるのが嫌な気持ちはあったと思いますか?
「もちろんあったと思います。ただ、撮っていたときはあまり難しく考える余裕はありませんでした。毎回監督が『こうしたい』ということに、どうやったら応えられるか。それをとにかくやるしかなくて、いっぱいいっぱいでした」。
――なるほど。作品的には家の跡取りという、個人に関係ないといえばないけど背負わざるを得ない大きな問題を考えさせられましたが、演じる上ではそこまで意識を広げないほうが、むしろ自然でしたかね?
「それはもちろん考えないといけないことだとは思いましたけど、自分自身の問題になったら、もっと感情的になるじゃないですか。『自分の家族はこうで、私は今こういう状態だから、こうしなきゃいけない』と冷静に考えられたら、ずっとケンカしてなくてもいいようなことだと思うんです。だけど、家が続いてほしい、お父さんに幸せになってほしい、おばあちゃんの望みも叶えたい、自分も幸せでいたい……という中で、家のために自分が好きな人と一緒にいられなくなるのもイヤ。お父さんのために自分を犠牲にしようともするし、自分を“跡取りになれない子ども”として見られることが悲しくて、怒りがバーッと出たりもする。家の問題の前にたくさんの感情があるから、物ごとがきれいには見えてなくて、片付いてもいない。由子はその状態でいいんじゃないかと思っていました」。
――「二階堂家物語」の撮影中は、雨が多かったそうですね。
「はい。私はそれで大変だった記憶はないですけど、とにかく雨は多かったです。でも映像が瑞々しくなったから、私は良かったと思っています」。
――由子に「やなことばっかり」という台詞があるし、登場人物たちの心情も全体的にどんよりとしているので、合っている気がしました。
「そうですね。毎日どピーカンだったら、『こういう問題はもういいんじゃない?』ってなっちゃいそうなので(笑)」。
――ところで、石橋さんはこの作品も含め、何かを抱えていてあまり笑わない役が多いですが、普段ははしゃいだりすることはありますか?
「あります。そういうことしかないです(笑)。能天気に暮らしているんですけど、作品のイメージで『笑わないと思ってました』と言われちゃったりします(笑)」。
――普段はどんなことで盛り上がるんですか?
「ライブに行って、自由にユラユラしているのは好きです。友だちと会って、おしゃべりやバカ笑いもするし、あと踊りをずっとやっていたので、踊るとスッキリします」。
――家で1人でいるときは何をしてます?
「最近はあまり家でゆっくりできてないですけど、猫が1歳ちょっとになって、かわいくて仕方ないので、遊んだりしてます。あと、暇なときは基本、音楽を聴いてます」。
――どんな音楽が好みなんですか?
「ジャンルにはあまりこだわらなくて、気分に合う音楽をいろいろ聴いてます。日本のヒップホップが好きですけど、結構何でも聴きます」。
――猫との絡みは、「二階堂家物語」でもちょっとありました。
「あの猫はちょっと恥ずかしがり屋で、監督が『ちゃんと芝居してくれない?』って怒ってました(笑)」。
――では最後に、2019年に特に取り組んでいきたいことはありますか?
「できそうにないことは言わないでおきますけど、より多くの人にちゃんと伝わるお芝居がしたいので、それがどうやったらできるのか、勉強したいと思います」。
――それこそ笑わないイメージを覆す役をやりたい気持ちもあったり?
「難しいとは思いますけど、コメディとかに挑戦してみたいです。本当に何でもやってみたくて、逆に特別『これをやりたい』というものはないんです。確かに最近は『暗い人かと思ってました』とよく言われちゃうので、そのイメージを覆して、『しめしめ』と思いたいです(笑)」。
石橋静河(いしばし・しずか)
生年月日:1994年7月8日(24歳)
出身地:東京都
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4歳からクラシックバレエを始め、ダンス留学後、2013年に帰国してコンテンポラリーダンサーとして活動。2015年より舞台や映画に出演し、2017年に初主演作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」で第60回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。主な出演作は、映画「うつくしいひと サバ?」、「きみの鳥はうたえる」、「生きてるだけで、愛。」、ドラマ「You May Dream」(NHK)、「半分、青い。」(NHK)など。映画「二階堂家物語」は1月25日(金)より新宿ピカデリー他にて全国順次公開。2月8日(金)より公開の映画「21世紀の女の子」、2月9日(土)放送のドラマ「闇の歯車」(時代劇専門チャンネル/20:00~)、舞台「こそぎ落としの明け暮れ」(3月15日(金)~27日(水)/東京芸術劇場 シアターイースト ※東京公演後、地方公演も開催)に出演。映画「いちごの唄」、「楽園」、「ばるぼら」が今年公開予定。
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「二階堂家物語」
配給/HIGH BROW CINEMA
詳しい情報は「二階堂家物語」公式HPへ
©2018 “二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited,Nara International Film Festival