SUPERB ACTRESS 松井玲奈
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
映画「輪違屋糸里」で京都の芸妓役
新選組隊士との恋と自分の夢に葛藤
――映画「輪違屋糸里 京女たちの幕末」で玲奈さんは芸妓の吉栄を演じていますが、「うちの頼みごと聞いとおくれやす」とか、たおやかな京訛りがハマってました。
「ありがとうございます。花街言葉は最初のほうはすごく苦戦しました。台詞に気持ちを乗せすぎると言葉が乱れてしまって、引っ張られないようにしないといけないとか、普段は気にしなくていい制限のようなものがありました。でも、撮影をやっていくうちに馴染んできて、制限がなくなっていったので、その過程は面白かったです」。
――糸里役の藤野涼子さんは「所作が一番大変だった」と話してました。
「所作も大きかったですね。あの時代では当然のことなんですけど、畳の縁を踏んだらダメでその上には座らないとか、襖の開け閉めの手を出す方向とか、立ったり座ったりするときの着物の捌き方まで細かくあったので。歩き方は一番練習しました。今撮っている現場でお着物を着たとき、歩き方がちゃんとできたり、所作のひとつひとつが身になっていたのを感じました。あのときに勉強させてもらえて、すごくありがたかったです」。
――この映画は2年前に撮影したんですよね。今、スクリーンの中の自分を見ると、どんなことを感じます?
「『今だったらもっとこうしたい』とも思いますし、『このときだからこそできた真っすぐな表現もあるな』というのもあったし、いろいろなことを考えながら観ていました」。
――2年前というと、同じく新選組を題材にした舞台「新・幕末純情伝」で主演もしていました。時代劇にはもともと馴染みがあったんですか?
「すごく馴染みがあったわけではないですけど、日本の文化はとても好きだったので、いつか時代劇に参加したい、お着物でお芝居したい……という気持ちは強くありました」。
――かつらもかぶりました。
「最初は違和感がすごかったです(笑)。でも、撮影している間に日に日に馴染んできた感じでした」。
――吉栄は新選組局長の芹澤鴨の腹心の平山五郎と恋仲ですが、そこで大きな葛藤をする場面があります。玲奈さんもそこまで重いことではなくても、“夢か別の事か”みたいな選択を迫られたことはありますか?
「私はまだないですね。わりとやりたいことを、やりたいようにやっているので」。
――ありがちですが、もし「仕事を取るのか俺を取るのか」みたいに言われたら?
「それを言う人とは、一緒にならないですね(笑)。私にとっては仕事も生活なので、その生活を脅かすのであれば、あなたは生活の一部にならない……というふうに思います」。
――子どもを抱くシーンがありましたが、母性について考えたことはありました?
「実際に赤ちゃんを目の前にしてお芝居すると、やっぱり母性みたいなものは感じました。『かわいいな』とか『愛おしいな』という気持ちがすごく出てきて、そのシーンは自分が出ている中でも特に好きです」。
――一方で、新選組のもう1人の局長だった近藤勇派による芹澤鴨暗殺計画で、平山五郎も襲撃されるところでは、吉栄が張り裂けそうに泣き叫んでいました。
「好きな人が目の前で……というのは、本当に苦しかったです。それに対して、自分は何もできなくて……。あのワーッと攻めてくるシーンは1日でまとめて撮ったので、現場はすごく緊迫感がありました。斬り合いのアクションシーンはだいぶカット数を撮っていたと思いますけど、吉栄や糸里の大事なところは一連で、なるべく少なく撮ってもらいました」。
――テンション的にあまり何回もやれない場面ですよね。吉栄は平山の何に惹かれたのかは考えました?
「考えはしましたけど、具体的なことは脚本には書かれてなかったんです。でも原作を読んで、吉栄がどう感じたのか、感情がどういうふうに動いたのか、ちょっとさらってみました。五郎さんは男性として、とても魅力的なんだと思います。目が片方見えなくても、吉栄はそれすら愛おしいんだと思って演じていました」。
――置屋に売られてきた芸妓のことも勉強しました?
「それも原作を読んで感じたことを一番大事にしました。身受けされるにも大金が要るという、今の時代にはない決まりごとがあったり、自分の身だけど自分ではないところがあるので、それが恋愛ひとつするにもあんなに大きくなるんだと感じました」。
――他に吉栄を演じる上で大事にしたことというと?
「糸里とのコントラストというか、キャラクターの違いは大切にしました。2人の関係性が最後に変わっていくので、そこがちゃんと出ていれば、主人公の糸里がどういうふうに強く、たくましくなっていくかが見えるかなと思っていました」。
――最初は吉栄が糸里のお姉さん的な立場でした。
「糸里を引っ張って、いろいろなことを教えてあげてましたけど、最終的には強くなって女として生きていく糸里に自分が救われる。そこが吉栄としては大きいところでした」。
――確かに糸里の成長物語になっていたので、玲奈さんの助演女優ぶりも良かったということでしょうね。糸里役の藤野涼子さんとはどうでしたか?
「一緒に楽しく撮影していました。確か撮影初日が2人でお団子を食べるシーンだったのかな? 最初は2人ともすごく緊張していたのを覚えてます」。
役者としてステップアップするためにも
人見知りを克服しないとダメだなと思いました(笑)
――吉栄は妹と死に別れたこともあって、「約束はあてにせんほうがええ」と繰り返し言ってました。そこは玲奈さんにはわかる心情でした?
「私は別にそう思わないですね。約束はあてにする人なので(笑)、逆に『約束したから大丈夫』という感じです。でも吉栄が歩んできた人生の中では、一番信頼していたというか、信じたいと思っていた両親に裏切られたので、それが大きい心の傷になっているのかなと思いました。そのせいで妹を失ってしまった。大切な人だったからこそ、ああいう言葉が出てきたのかなと思います」。
――吉栄は糸里のことを「女子(おなご)の幸せを恵んでくれた」と話してました。
「あそこは本当に好きなシーンで、女同士の強い絆があの2人にあったんだなと思いました。自分の子どもに大切な人の名前を付ける意味合いは大きいですよね。男女の恋愛のお話に見えて、女の友情や絆の話でもあると強く感じました」。
――“女の幸せ”というと、どんなことをイメージしますか?
「何だろう……? まあ、毎日笑っていられたら、女としてというか、人として幸せなのかなと思います。でも、幸せかどうかは最終的な結果じゃないですか。山あり谷ありの人並みの人生を、私も歩んでいます」。
――とりあえず今年は玲奈さんにとって、幸せな良い年だったんじゃないですか? 朝ドラ「まんぷく」に出演したり、小説家デビューをしたり……。
「毎年、頑張りは更新しているつもりです。でも振り返ると、『もっとできた、もっとやりたい』という気持ちのほうが強いです。30歳に向けて役者としてもっと力を付けたい、ステップアップしていきたいと思います」。
――ブログでは「お芝居は奥が深い。最近はそればっかり考えています」とありました。深みに気づくということは、演技に関して何か見えてきたものがあったのでは?
「認識が変わったことは多かったです。いろいろな現場で出会った人たちがもたらしてくれた影響かと思います。映画1本観るにしても、見方が変わってきました。前は普通に楽しんだり、どうやって撮ったのかを気にして観てましたけど、やっぱり自分がお芝居をする人なので、『この人はどういう声の使い方をしているんだろう?』とか、細かいところをもっともっと研究したくなりました」。
――仕事以外で始めたことはありました?
「今年はギターを始めました。お仕事で歌うつもりはないですけど、個人的に好きな曲をギターを弾きながら歌うのはすごく楽しいです。また違うところで自分が開けていく感じがします」。
――ギターの腕前はどんな感じなんですか?
「全然上手ではないです(笑)。でも、何かの機会でファンの人の前で弾けたらという気持ちで、個人的な趣味として続けていけたらと思います」。
――どんな曲を練習しているんですか?
「今はあいみょんの曲を弾いてます。どの曲かは秘密にしておきます(笑)」。
――ファンの人の前で弾くときのお楽しみ?
「そういう機会があったら、やるかなという感じです」。
――あと、ツイッターでは「残り少ない2018年の目標」として「人見知りをましにする」と3回書いてました。
「人が多い現場が苦手なので、どうしても殻にこもって本を読むことに走ったりして、大人数の中でコミュニケーションが取れないんです。それをちゃんと克服しないとダメだなと思ったんです」。
――何かそう思ったことがあって?
「共演者の方に『壁を作りすぎじゃない?』と言われました(笑)。もういい大人なので、ちゃんとしようと思います」。
――クリスマスは誰かと盛り上がりますか?
「まだ予定が出てないので何とも言えませんけど、(『まんぷく』の撮影で)大阪にいそうです。クリスマスは大好きで楽しみですけど、『これをしたい』みたいなものはないかもしれません。毎年、売れ残ったケーキを食べられたら幸せです(笑)」。
――来年はどんな年にしたいですか?
「やりたいことはいっぱいあります。まず、素敵な先輩方に教えてもらえることがたくさんあると思うので、自分からもっと積極的に近づきたいです。吸収できることを勉強しながら、ステップアップしていけたらと思います」。
――そのためにも人みしりは克服しないと?
「はい。直していきたいです(笑)」。
松井玲奈(まつい・れな)
生年月日:1991年7月27日(27歳)
出身地:愛知県
血液型:O型
【CHECK IT】
2008年にSKE48のオープニングメンバーとしてデビュー。2015年8月に卒業して本格的に女優活動を開始。ドラマ「神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎」(TBS・MBS系)、ドラマ・映画「笑う招き猫」、映画「めがみさま」、舞台「新・幕末純情伝」では主演を務める。今年はドラマ「海月姫」(フジテレビ系)、「ブラックスキャンダル」(日本テレビ系)、映画「劇場版 仮面ライダービルド Be The One」などに出演。現在、連続テレビ小説「まんぷく」(NHK/月~土曜8:00~)に出演中。「東京暇人」(日本テレビ/金曜25:59~)でMCを務める。映画「輪違屋糸里 京女たちの幕末」は12月15日(土)から有楽町スバル座ほか全国順次公開。映画「21世紀の女の子」が2019年2月8日(金)から公開。「今日も嫌がらせ弁当」が2019年夏に公開予定。
詳しい情報は公式HPへ
「輪違屋糸里 京女たちの幕末」
詳しい情報は「輪違屋糸里 京女たちの幕末」公式HPへ
(c)2018銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会